健康診断などで、私たちは普段から「血圧120/70 mmHg」といった数字を目にします。

では、たとえば「100 mmHg」という圧力は、実際にはどのくらいの力なのでしょうか。

血圧の単位であるmmHgは、「何mmの高さの水銀を押し上げられる圧力か」を表しています。100 mmHgを水の高さに換算すると、約136 cmH₂Oです。つまり、高さ約1.36 mの水柱が底にかける圧力と同じくらいです。

私たちの心臓は、このような圧力を一拍ごとにつくりながら、全身へ血液を送り続けています。

では、ほかの動物はどうなのでしょうか。魚の血圧は? キリンは? 鳥は? 猫にも高血圧はあるのでしょうか?

動物を比べてみると、「血圧」というものの見方が少し変わってきます。

魚・人・キリンの血圧を比べたイラスト。魚は約30 mmHg、人は約120 mmHg、キリンは約200 mmHg。

今回主に参考にするのは、Schulteらが2014年に発表した「The evolution of blood pressure and the rise of mankind(血圧の進化と人類の台頭)」という総説です。[1] 魚から両生類、爬虫類、哺乳類、鳥類、そして人間まで、血液の循環の仕組みを比べながら、なぜ進化の中で「高い血圧」が必要になったのかを考察したレビューです。

魚の血圧は25〜50 mmHg

まず魚から見てみましょう。魚の血液は、次のような循環をしています。

心臓 → えら → 全身 → 心臓

心臓から送り出された血液は、最初に「えら」の細い毛細血管を通ります。毛細血管は非常に細く、血液が通り抜けるときの抵抗が大きいため、ここで圧力が下がります。魚の心臓が血液を押し出すのは、この輪の中で一度だけです。そのため血液は、えらで下がった圧力のまま全身へと流れていきます。[1]

Schulteらの総説では、魚類で心臓から送り出される血液の圧力は、おおむね25〜50 mmHg程度とされています。[1] 人間の収縮期血圧(上の血圧)が120 mmHg前後であることを考えると、ずいぶん低いですね。

魚が低い血圧で生活できる理由の一つは、水中にいることです。

陸上では、重力によって血液は下へ移動しようとします。一方、水中では、周囲の水圧が重力の影響をかなり打ち消してくれます。そのため魚は、陸上の動物のように強い圧力で血液を送り上げる必要がありません。[1]

実際、1 mの水柱で生じる圧力差は約73 mmHgにもなります。[1] 私たちが立っているだけでも、頭と足ではかなり大きな圧力差が生じますが、魚はその問題から比較的自由なのです。

陸に上がると、「肺」が血圧の上限になった

脊椎動物が空気を呼吸するようになると、新しい問題が出てきました。肺です。

肺では、空気中の酸素を血液の中へ取り込まなければなりません。そのため肺胞(肺の中の小さな袋)では、空気と血液を隔てる膜を非常に薄くする必要があります。厚い壁では、酸素が十分に通り抜けられないからです。

Schulteらは、この膜の厚さをおよそ1 μm(1000分の1 mm)としています。[1]

ところが、薄い膜には弱点があります。高い圧力をかけられないのです。

肺の毛細血管の圧力が上がりすぎると、血液中の水分が肺胞の側へ漏れ出し、肺水腫(肺に水がたまった状態)を起こしてしまいます。私たち人間でも、心不全によって肺の血管の圧力が高くなると、肺水腫を起こします。

Schulteらは、この薄い肺の構造上、肺の循環の圧力はおよそ30〜40 mmHg以下に保つ必要があると説明しています。[1]

初期の空気を呼吸する脊椎動物、つまり肺魚や両生類、爬虫類では、「肺へ行く血流」と「全身へ行く血流」が、今の哺乳類ほど完全には分かれていませんでした。そのため、肺を高い圧力から守ろうとすると、全身の血圧もあまり高くできないという制約がありました。[1]

ここから、循環器の大きな進化が起こります。

「肺は低圧、全身は高圧」という仕組みができた

哺乳類では、心臓の左右が完全に分かれました。

  • 右心系:肺へ血液を送る
  • 左心系:全身へ血液を送る

という二つの循環です。これによって、肺は低い圧力のまま守りながら、全身の血圧だけを高くすることができるようになりました。[1]

鳥類でも、哺乳類とは別の進化の道筋で、同じように肺の循環と全身の循環が分かれています。これが、高い血圧を持つ動物が登場するための重要な条件になったと考えられています。[1]

赤血球が小さくなった

さらに、興味深い変化があります。赤血球が小さくなったことです。

肺魚や一部の両生類では、赤血球の直径が約40〜50 μmあります。一方、人間の赤血球は約7 μmです。[1]

赤血球が小さくなれば、それが通る毛細血管も細くできます。すると、同じ大きさの筋肉の中に、細い毛細血管をよりたくさん張り巡らせることができます。

毛細血管が密になれば、血液中の酸素と筋肉の細胞との距離が短くなります。そのため、大量の酸素を効率よく筋肉へ届けることができます。これは、長い時間走ったり、飛んだりする動物には大きな利点です。

細い血管には、高い圧力が必要

しかし、細い血管には問題もあります。血液を流すための抵抗が大きくなることです。

血管の中を流れる液体の抵抗は、単純化すると、血管の半径の4乗に強く影響されます。Schulteらの総説では、組織の中の血管の抵抗は、哺乳類では一部の両生類のおよそ10倍に達する可能性があると推定されています。[1]

つまりこの論文では、細く密集した毛細血管の網へ十分な血液を送り込むために、より高い灌流圧(血液を組織へ送り込む圧力)、すなわち高い血圧が必要になったと考察しています。[1]

高い血圧は、単に身体に負担をかけるだけのものではありません。高い代謝や、持久的な運動能力を支える循環の仕組みの一部として、進化してきたのかもしれません。

キリンの血圧は約200 mmHg

高い血圧を必要とする動物の極端な例が、キリンです。

成体のキリンでは、心臓の高さで測った平均動脈圧が約200 mmHgあります。[2] 平均動脈圧は、心臓が縮むときと広がるときを通した血圧の平均です。

なぜ、キリンにはこれほど高い血圧が必要なのでしょうか。答えは、やはり重力です。

キリンの脳は、立っていると心臓よりずっと高い位置にあります。血液を上へ送ると、高さ1 mあたり約74 mmHgずつ圧力が下がります。[2]

そのため、心臓の高さで約200 mmHgの平均動脈圧をつくり、ようやく頭部で約100 mmHg程度の灌流圧を確保しています。[2] つまりキリンでは、心臓の高さでは超高血圧でも、脳に届く頃には必要な血圧になっているわけです。

当然、「そんな血圧で、心臓や腎臓は壊れないの?」と思いますよね。

キリンの心臓、血管、腎臓には、高い血圧に対応するためのさまざまな構造上・機能上の適応があります。[2] たとえば心臓は、左心室の壁が厚く内側の空間が小さい形で、高い圧力をつくり出しています。腎臓は丈夫な膜に包まれて内部の圧力が高く、血液をろ過する圧力が上がりすぎないようになっています。[2] 人間では危険な血圧でも、キリンではその圧力を前提として、身体全体が作られているのです。

ただし「高い血圧」には代償もある

高い血圧によって、細かな毛細血管まで大量の血液を届けられるようになりました。それなら、血圧は高ければ高いほどよいのでしょうか。もちろん、そうではありません。

Schulteらは動物の種類ごとに、おおよその収縮期血圧を次のようにまとめています。[1]

  • 爬虫類:約40〜60 mmHg
  • 哺乳類:約120 mmHg
  • 鳥類:約140 mmHg

そして興味深いのが、1960年代にロンドン動物園の動物を対象に行われた、死後の解剖による研究です。自然死した816匹の動物について、心臓、大動脈、主な動脈を調べたところ、動脈硬化が見られた割合は次のとおりでした。[1,3]

  • 爬虫類:1%
  • 哺乳類:3%
  • 鳥類:18%

さらに、タカやワシなどの猛禽類では、安静時の血圧が約200 mmHgとされ、調べられた個体の約54%に動脈硬化が見られたと紹介されています。[1]

これは60年以上前の動物園の動物を観察した研究ですし、哺乳類や鳥類の動脈硬化の原因が血圧の高さだけではないと考えられます。それでも、高い圧力を長い期間受け続けることが、血管にとってまったく無害ではないという点は、人間の高血圧を考えるうえでも興味深いと思います。

では、私たちに身近な動物ではどうでしょうか。

猫も、高血圧になる

実は、猫にも高血圧があります。

203匹の猫を調べた研究では、11歳以上の猫は若い猫に比べて、収縮期血圧(上の血圧)、拡張期血圧(下の血圧)ともに高くなっていました。[4] 

そして猫でも、血圧が高くなりすぎれば臓器が傷みます。代表的なのが眼です。高血圧によって網膜出血や網膜剥離を起こし、突然見えなくなってしまうことがあります。そのほか、脳、心臓、腎臓にも、高血圧による障害が起こります。[5]

つまり、「血圧が高すぎることで臓器が傷む」という現象は、人間だけに起きるものではありません。

ただし猫では、人間のように生活習慣などを背景とした高血圧(本態性高血圧)よりも、慢性腎臓病や甲状腺機能亢進症など、別の病気に伴う高血圧が多いとされています。[5] 同じ哺乳類でも、高血圧になる理由には違いがあります。

チンパンジーでは、塩分で血圧が上がる

では、人間にもっと近い動物ではどうでしょうか。チンパンジーを使った、非常に興味深い研究があります。

1995年に報告された研究では、もともと塩分の少ない食事をとっていたチンパンジー26頭のうち半数に、人間の食事の範囲内の量の食塩を、少しずつ加えていきました。すると、収縮期血圧・拡張期血圧ともに、明らかに上がりました。[6]

さらに興味深いことに、食塩を加えるのをやめると、6か月後には血圧の上昇が元に戻りました。[6]

その後の研究でも、17頭と110頭のチンパンジーでナトリウム(食塩の成分)の摂取量を変えたところ、ナトリウムの摂取量が少ないほど、血圧も低いという結果が示されています。[7]

動物ごとに、基本となる循環の仕組みは違います。しかし、その上に「生活環境」が加わることで血圧が変わるという現象は、人間だけのものではないようです。

まとめ 血圧は、進化と環境の結果でもある

魚は低い血圧で生き、哺乳類や鳥類では「肺は低圧、全身は高圧」という循環が発達しました。キリンのように、身体の構造上、約200 mmHgもの圧力を必要とする動物もいます。

一方、猫では高血圧によって臓器の障害が起こり、チンパンジーでは食塩の摂取によって血圧が変わります。

つまり血圧は、その動物の身体の構造や代謝、生活環境に合わせて成り立っているものです。私たち人間でも、必要以上に血圧が高くなれば、その圧力が今度は血管や臓器を傷めます。

普段何気なく見る「120 mmHg」という数字も、動物の進化という視点から見ると、少し違って見えるのではないでしょうか。